このO邸の夫人は、改修後の最も印象的な感想として、次のようなことを話された。「不快な室内の上下の温度差が無く、空気がさわやか。古い家につきまとう室内特有の臭いが無くなり、いままでの住まいではあり得ない空気質の変化を感じている」と。
改修部分は、プラン[図1]の赤斜線を引いた和室以外の部分。和室はサンルームの感覚で傷んだ木材を補修するだけにとどめている。
そうすることで、広い築70年の民家を壊さず、必要な生活部分だけを断熱改修して快適性を高め、持続可能な住まいとして現代によみがえらせた。
「本物の素材を生かす」魅力には、家族全員の意見が一致。床・壁・天井に断熱材を施工し、断熱改修部分のQ値は2.9w/㎡・K(コーナー札幌製省エネソフトで計算)。
因島の気候は温暖で、雪はめったに降らず、0℃以下になるのも年に数回とか。しかし、冬になるとやはり海風や山からの吹き降ろす風は、冷たい。
堀本社長は「温暖な地域で日当たりも良いため、このQ値で十分な暖かさが得られる」と話す。第3種のセントラル計画換気量0.5回/時(アルデエンジニアリング)で、断熱計画換気の省エネ施工だ。
玄関へ一歩踏み入った印象は、和のたたずまい。だが、襖を開けてLDKへ入ると「あっと驚くようなプロバンス風の洋間の雰囲気」。この意外性が、O夫人には「とても気に入ってる点」だ。
現代のライフスタイルを取り入れつつ、和風も共存させたモダン和風の設計が、伝統に暮らしの変化を加味して新鮮だ。
この家は、かつて船主だった施主の祖父が、九州の石炭を大阪へ運ぶ途中、我が家づくりのために紀州の港に立ち寄り、熊野の松や杉を運び、その材で建てたという思い入れの深い建物。
壊すことも検討したが、50代後半の施主夫妻が、定年後を目前にして「暖かく快適な家」を実現する計画を実行。経年の味わいがとても「良いかげん」の古材と新しい機能や設備が組み合わさって、温故創新の住まいを実証している。